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執筆者の写真望月 大仙

権処さんの日記(拾参)

令和5年2月28日



 引っ越しの前には、諸々のお道具、持ち物を清めなければならぬ。日本において清めは禊など水を使って行うことは皆様もよくご存知のことでしょう。別火坊においては、佐保川から汲んできた水で不浄を払う作法が存在します。お手洗いなどに行った後は必ず水を身に振りかけるのです。そして、仏教においては行水の他にも清めのために用いられるものがあります。


 それは「お香」です。塗香を塗って身を清めるように、線香や焼香による煙は煩悩などの垢塵を清める意味を持ちます。(これは密教の修法でも行います)別火坊から二月堂下にある参籠宿所へと移動する前に、この薫香を行うわけなのですが、これがなかなかに慌ただしい。


 というのも大広間の奥に大きな香炉をおいてそこで香を焚きます。そのたった一つの煙を用いて全員が牛玉箱、牛玉櫃などはもちろん、私物まですべてを香燻するわけです。


 さながら流れるプールのように練行衆は持ち物を手にもって奥へ行き反時計回りに香炉の周りを回りつつ煙にくぐらせます。終わればそれらをつづらに入れ、また持ってくぐらせてはつづらに入れるという作業を繰り返します。最後にはつづらを薫香して童子さんに託す。


 たった十分程度のことですが、皆が流れるように作業を行うので、それに遅れまいと非常に気を張るひとときなのです。それが終わると大広間は何も物のない状態に。各々、席につくと間が空いていて何となく寂しい感じを覚えますね。


 追い出し茶と呼ばれるほうじ茶を一杯頂いたら、練行衆は早々に別火坊から出ていきます。本日の天候は晴れ。



 これが雨だとまた厄介なので。こちらは何年か前の雨行軍ですが、写真をよくよくみれば分かりますが草鞋での移動なのです。なので濡れて足元がぐちゃぐちゃに…。


 幸運にもこの日は晴天に恵まれました。しかしそうすると紙衣に素絹と呼ばれる絹でできた純白の衣を纏うとと二月だと言うのに歩いてるだけで少々暑さを感じるほど。紙衣の保温力はすごい。



 参籠宿所の前で娑婆古練とのご挨拶。挨拶すると参籠宿所に入っていくのだが、今年は今までと参籠宿所の部屋も違うのだ。




 参籠宿所の構造は図のようになっており、それぞれの部屋割りは以下の通り。


和上宿所・・・和上、南一、南二

大導師宿所・・・大導師、処世界

咒師宿所・・・咒師、権処世界

大宿所・・・堂司、衆一、北二、中灯


 昨年までは西側の大導師宿所であったが、本年は初めて東側の咒師宿所での参籠となる。しかし、咒師宿所に来るのは実のところ初めての話ではない。かつて仲間として参加した折には、咒師宿所の担当であったのだ。故に咒師宿所壁には仲間として参籠した記録が残っているのだ。



 というのも参籠宿所の壁には、その年に参籠した練行衆、仲間、童子の名前を書くのが通例になっており、ここ30年ほどの練行衆たちのお名前が所狭しと書かれている。満行の暁には、この部屋に練行衆と仲間という2つの役職で名前が残ることになるわけだ。今から楽しみでならない。



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